ぶらり歩き

18. 館山を歩く                                    平成21年11月7日

 前日、大学時代の友人5名と千倉で1泊してアワビ、伊勢海老、サザエなどの海の幸に舌鼓を打ち、杯を片手に大いに英気を養い、本日は秋晴れのもと館山周辺をウォーキングする。

 10時過ぎに館山駅に降り立ち、観光案内所で駅周辺のマップを入手して海に向かって歩き始める。海岸沿いの道路を渡り、浜辺に出ると、それほど遠くない沖合いに白い船体の地球深部探査船・ちきゅう(写真1)が目に飛び込んでくる。この船がもたらす調査結果は小生の仕事に無縁ではないため、偶然にもその姿を間近に見ることができ感激する。ちきゅうは(独)海洋研究開発機構が2005年7月に建造した世界最大級の地球深部探査船で、深さ2,500mの深海底からさらに地下約7,000mまで掘削できる能力をもち、東南海・南海地震等のプレート境界で発生する巨大地震の発生メカニズム等を解明するためのデータを直接採取する最新鋭の調査船である。全長210m、幅38m、船底からの高さ130mの巨大な船である。

 海岸線に沿って南に歩き、海上自衛隊・館山航空基地の外周沿いの道を通り鷹之島弁天に向かう。本殿はブロック造の壁で囲まれた二間四方の建物であるが、屋根の一部が破損して白いシートで応急処置が施されている。神社で一休みした後、館山航空基地の正門まで戻り、門前で歩哨に立っている若い自衛官に基地見学を申し出ると、守衛所周辺に限り10分間だけ可能との返事をもらう。折角の機会であり、初めて自衛隊の基地に入る。正門を入ると数機の軽飛行機ヘリコプターなどとともに、基地内の建物の礎石に用いられた石(写真2)が展示されている。この石は江戸城外壕の石垣に用いるため、慶長年間(1596〜1614年)に千石船で海路仙台から江戸に運ばれる途中、暴風に遭い、鷹の島の島影に避難したが、不幸にも沈没してしまった石の一つだという。昭和5年(1930年)に旧海軍館山航空隊が創設されたときに海中から24個の石が引き上げられ、建物の礎石、鷹之島弁天の手洗石に再利用されたようである。房総半島には鋸山の石切場があり、輸送距離を考えるとこの石を使えばよいとかんがえてしまうが、砂質凝灰岩で耐火性はあるものの強度的に弱いため、江戸城石垣用の石は硬い安山岩の伊豆石を多く調達したというが、仙台からも運ばれていたことを知る。
  
        

写真1 地球深部探査船ちきゅう 写真2 江戸城外堀石垣の石
 
写真3 赤山地下壕 



 館山航空基地から登り坂の道を数分歩き、赤山地下壕に立ち寄る。館山は東京湾の入口に当たる立地条件のため、先ほどの航空基地もそうであるが、江戸時代から砲台が設置され、明治時代以降も航空隊基地等が設けられた。地域コミュニティの豊津ホールで氏名、住所を記入して、懐中電灯、ヘルメットを受け取り、地下壕を見学する。記録がほとんど残されていないため、地下壕(写真3)が建設された経緯は明らかではないようであるが、全長約1.6kmの地下壕は全国的にも規模の大きい壕である。地下壕は手掘りで掘られたもので、凝灰岩という岩質にもよると思うが、裸電球で照らされ、直線部も微妙に湾曲していている空洞(写真4)からは人間の温もりが伝わってくる。太平洋戦争の終り頃には、館山海軍航空隊の防空壕として使用され、壕内には発電所、病院施設もあったといわれている。 赤山地下壕を後にして館山城を目指して歩く。その途中、洋館造りの建物が目を引く。江戸時代に盛岡藩の常宿・南部屋という屋号で呼ばれた鈴木家の住宅(写真5)で、関東大震災の翌年に完成した建物である。国の有形文化財に登録されている。明治22年(1888年)に旅籠をやめて医院を始めたが、住宅の入口に赤い門柱があったことから赤門の名で市民に親しまれているという。邸内は一般公開されていないのは残念である。

 再び館山城に向かって歩き出すが、また脇道に逸れて總持院に寄る。この寺は真言宗智山派に属し、永長2年(1097年)に安房の国司・源親元の創建になるという由緒ある寺である。

 總持院からひたすら館山城を目指して歩く。館山城は城山公園に建っていて博物館分館となっている。公園入口から坂道を15分ほど歩くと、昭和57年(1982年)に再建された天守閣(写真6)が建っている。館山城は里見義頼により天正6年(1580年)に犬山城を模して築城されたというが、当時の天守閣の外観は不明ということである。因みに、現在の天守閣は犬山城の天守閣を模したものである。城の内部は南総里見八犬伝に関する展示が行われている。天守閣からは館山市内、東京湾が一望に見渡され、秋晴れのもと歩いてきて汗ばんだ肌にやさしく吹きつける風が何ともいえず心地よい。
 

写真4 赤山地下壕内部  写真5 鈴木家住宅 写真6 館山城天守閣



 

戻る


(C)2024 HIRAI. All Rights Reserved.